影のジャック

ゼラズニイ1971年の作品。訳者が荒俣宏で、巻末の解説まで読み応えがあった。
ゼラズニイの作品というのは、次第に明らかになる作品世界の広がりに心遊ばせることができれば、とても魅力的なものに感じられるであろう。そういった類の作家であるに違いない。
なので「伝道の書に捧げる薔薇」とか短い作品よりも、そこそこ長い作品の方がより楽しめると思う。最近では「光の王」が復刊されたので、そちらを読んでみるのも一興。
(短編は短編で想像力を刺激されるのだが)
で、「影のジャック」であるが、実に読ませる作品であった。
さすがに1971年…という描写はあるにせよ、ジャックという男の軌跡を見事に描き出している。
とくに好きなのが最後の場面だ。
追い求めたものも、得たはずのものも、抜き差しならず結局自分ですべて精算せねばならなくなった孤独な男が最後にたどりついた情景が…というところに浪漫的なセンスを感じるのだ。
最後の最後で、意志だの感情だの知識だの経験だの義理だの人情だの…云々されるよりも、ただ一葉の場面だけ。これが実に良かったです。御馳走様でした。