「落語2.0お勉強会」by 岡田斗司夫

岡田斗司夫氏の人生の軌跡というのは、傍からみていてもなかなか有為転変、凄いものがあると思うのだが、今度は「落語」の世界へのアプローチをしているという。
んで、自分なりのリサーチをした結果「いける!」(島本和彦調)と考えたのであろう。昨年12月30日に最初の勉強会を開き、今回は2度目の試みだ。
よりfrankで簡潔な形で“面白い噺”を聞き手に届けることを主眼に活動をしているということで、さらに今回漫画家・田中圭一さんも参加されるということで、渋谷はJ-POPカフェ渋谷"GARDEN"まで出張ってみた。
テーマは「美女と水爆怪獣」。
吉祥亭満月岡田斗司夫氏)とともに高座に上がるのが、「ボクは怪獣の噺しかしませんよ!」という怪獣亭パチ助(喜井竜児氏)に「ボクはシモネタしかしませんよ!」という前立亭茎丸(田中圭一氏)だったためにつけられたテーマだったとか。
この3人に、真打である落語家・瀧川鯉朝師匠(こういった表記が正しいのかどうか落語に詳しくない私には分からんが)を加えて、4人それぞれの噺を聞こうという趣向である。
個人的にロフトプラスワンの濃ゆい雰囲気が好きで(煙草の煙は大嫌いだが)、主にむさい男ばかりのイベントに行っていた身からすると、他のBlogでは客層が男性9割とか書かれていたが「そりゃ違う」と突っ込みを入れたくなった。岡田斗司夫氏単体イベントの場合、結構女性が多く参画していると思う。
それはともかく、ざっと各人の噺を追ってみよう。
怪獣亭パチ助さんは「パチ物怪獣」についての噺。怪獣を支える記号についての説明が面白かった。
たとえばゴジラは3つの記号から出来ている。
「水爆のキノコ雲に目鼻をつけた記号で頭部が出来ている。だからゴジラの頭は丸い」
「身体は恐竜のイメージなので2本脚に尻尾、短い前腕」
「背中は燃え盛るビルの背びれ」
といった感じ。
できるだけ一般の人にもわかりやすいように話を誘導しつつ、最後にパチ物怪獣についても愛を…と締めくくるあたりよくまとまっていた。
次は瀧川鯉朝師匠。
さすがに本職だけあって、とりとめない噺(マクラ)であっても強引に引っ張っていくところに安心感があった。
ただ好き勝手な噺をできるイメージであったものが、集ったお客が意外とそうでもないのじゃないかと(私が)心配になってしまう印象を受けた。杞憂かもしれんが。
よく指摘されるように“客の笑いの温度差がある”状態は、同じ客としても居心地が悪くなる。気にしすぎかしらん。
それでも円谷プロのお膝元、祖師ヶ谷大蔵商店街を舞台にしたネタ(元ネタ忘れた)はかなり濃く、満足。
飲み会の席で「ン」がつく怪獣・特撮のタイトルや場面を披露すれば、田楽を「ン」の数だけ頂けるという話で、濃い特撮系のタイトルがたくさん出てきた。
この客層でだいたい普通は「ガス人間」(1960年作品)とかリアルタイムで見てないだろう、とか思ったけど。アクマイザー3の挿入歌まで飛び出るに及んで楽しくなってどうでもよくなった。
膨大な知識を立て板に水とうまく披露されると中身が何であれ、麻痺したように笑うしかない。
あと師匠は高知出身で中学の修学旅行が関西で、集団行動を乱してまでゼネプロを訪れていたという過去を披露してくれた。これはかなり共感できた。
で、さらに次はうって変ってPowerPointによるプレゼンスタイルで前立亭茎丸氏。
休憩時間に購入した「月刊・岡田斗司夫(3)」には新宿ロフトプラスワンイベント「爆笑対談:田中圭一 大河オナニーを語ろう!」が収録されていて、その「エロ銀河鉄道」部分を読んで密かに爆笑していた身としては大期待であった。
が、さすがに同じインパクトのものをこのスタイル(渋谷で落語でこの客層)で提供するわけにはいかず、田中圭一入門編といった趣で、ちょっと外された気分であった。
それでも「男の子は陥没乳首が好き」という結論にもっていく強引さ、「銀河鉄道物語」の解釈(これはどこかNetで既に見ていたような気がするため衝撃度は薄かった)、ともに次を期待させる奔放さであった。
そして最後に岡田斗司夫氏の登場である。
核分裂、連鎖反応、ウラン235の話など、教室で先生から面白い科学の話を聞いているような状態になる。
非常に印象的だったのは、黒色火薬は圧縮しないなら爆発しないが(発熱はする)、ウラン235は約16kgという臨界量を越えると爆発してしまうという話。
天然ウランに0.7%しかウラン235は含まれていないため、こういった事態に普通陥ることはないが、アフリカかどこかの湖で長きに渡る堆積からウラン235が臨界量に達してしまい、湖の水温が1万年(?)に渡って60℃に上昇してしまったという。水の対流によって爆発に至らず、ずっと発熱状態が続いた稀有な例、ということだ。
なんか想像力を刺激される凄い話だった。
一方で大学時代、特撮好きで8㎜映画を撮影するために爆発シーンの研究が高じて黒色火薬硝酸カリウム75%、硫黄15%、炭素10%。詳細はWikipedia参照。)を…という話も激烈に面白かった。
高橋留美子「ダストスパート」にちょっとだけ出てくる本「腹々時計」(爆弾の教則本)とか、連想していた。
いい爆発シーンを撮るために、点火プラグをさした黒色火薬を窪地にセット、その上にガソリンをいい感じに気化させたビニール袋を置き、さらに土を軽くかぶせてから爆発させるといった段取り。
爆発時にプラヅマ化した熱の塊が空中を浮遊していくシーン、これを見てしまった人は何かに取り付かれるように同じ光景をより効率的に、よりうまく現出せしめるような衝動に駆られる。特に男の子なら誰でもそうだ。
原爆実験では、この“神の火”(なにせ規模が違う)が昇天する様を見てしまったがゆえに、既に戦況の決まっていた太平洋戦争時の日本に原爆投下を実行させたのであろう(計画では18発だとか。民族浄化一歩手前っぽいよなあ。現在生きている奇跡に感謝だよ、まったく)といったところで〆。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E5%AE%9F%E9%A8%93
なお、原水爆反対集会に参加する彼女を止めようとした岡田氏が「だって地球がピンチなんだよ」と反論されて止められなかった話もむべなるかなと思ったが、その話を聞いた庵野秀明氏が「地球が 地球が 大ピンチ〜♪」と楽しそうに歌ったというのも非常によく分かる(というか私の頭の中でもBGMがかかっていましたよ)。
原水爆反対集会の背後に社会党がいるか共産党がいるかで、「ソ連の核はいいが、中国とアメリカは許せん」とか「中国の核はいいが、ソ連アメリカは許せん」とかあったらしい。それもまた時代か。
さて全体の印象。
岡田氏が「今、このネタ(特撮系)で笑った客はイタい客だから」と言ってからネタの説明を続ける…という場面が結構象徴的な気がした。
面白い話を放埓に共犯空間で語るのがオタ話だとして、まあそれは楽しいに決まってる。反対に一般に敷衍する部分も考慮するならどうしても何らかのExcuseが発生する。
そういったことだろうと思うのだが、そうだとするならExcuseを越えたところに何を見出すのか自分の中での受け皿を用意しておかねばならぬような気がする。
月刊・岡田斗司夫(3)に収録された田中圭一対談の原稿と、前立亭茎丸氏のPowerPointプレゼン落語とで、いまだ前者に魅力を感じる自分としては、ちょっと難儀だが。
ま、あまり無理しても仕方ないので、今はこれまで。