取り急ぎ

森薫乙嫁語り」(フェローズ)
遊牧民族ちっくな12歳の少年のもとに輿入れした20歳の魅力的なお嫁さんの話。
冒頭12歳の旦那に褒められたからか民族衣装をずっと着続けていて、後半になって臭いが気になると早合点して周囲を省みずに洗濯しようと脱いでしまうあたりの直情さが好ましく描かれている。
旦那の家族のために兎を狩りに行き、兎料理を振る舞い、それがもとで子供たちに弓を教えたりと、不思議な馴染み方をする有様があたたかい。
で、純情で好ましくはあるけれど、一方でそれゆえに政治的な集団内では奇矯で普通の縁組をさせてもらえなかった背景が、最後に彼女の出身部族の政略結婚会議とでもいうべき一連の会話からうかがえる。
そして次回は部族の都合とやらで、彼女は離縁の危機を迎えるのだというところで「続く」となる。
背景世界に根付く暮らしを細部まで描くことの楽しさと、その社会の中で降りかかる困難に立ち向かう人々の様をしっかりと、ときに軽妙で実に雰囲気たっぷりに見せてくれるのが森薫の凄いところか。
入江亜季群青学舎」最終回(ビーム)
連作シリーズの最終話は、中年から老年と思われる男性教師の部屋に転がり込んだ女学生二人という凄いシチュエーションを扱っている。
しかも焦点は卒業式で、先生は不登校だと思われる教え子二人の学生服をクリーニングして用意しておくという気の配りよう。
つまりは暗さや湿っぽさ男女の関係ではなく、親子に近い関わりとして描いているのだ。まさにファンタジーではある。
こんな話を最後にもってくるというのは、やっぱりこの著者もただ人ならぬと感じさせるに十分でありました。
最後に結局卒業式に出なかった二人のために卒業証書授与を行う先生も素晴らしかったが、それにちょっくら感動した趣のある女学生が前向きな質問をするに、教師>学生の関係が解消したのだから「出てけ」と返すのは、理由になってなくて実に微笑ましい。
最後まで瑞々しさを失わず、作品のトーンを維持し続けたのは感心させられることしきり。新たな長編連載に期待。