アルボレアのガエルさん

こんな物語が読みたい。


信じられないかもしれないが、Boy meets Ghaeleした。
どうやら次元界移動の途中、なんらかの事故にあって俺たちの物質界にたどり着いたということらしい。
最初の出会いは近くのコンビニだった。
予備校帰りにいつものコンビニで夕食なぞを調達しようと立ち寄ったところ、おかしな格好の女性が立ち尽くしているのをみつけた。
鮮やかなみどりの黒髪が腰まで伸び、絶妙のプロポーションでありながら、なんだか外国の民族衣装のようなものを身にまとい、あろうことか腰には刀剣らしきものが佩かれている。
不審に思ってまじまじと見ると、呆然と周囲を見渡しているその顔つきが、凛々しくも可憐な西欧系の美しい顔立ちであったのはともかく、エルフのようにとんがった耳、そして黒い瞳が見当たらぬ真珠色の目をしていることが分かった。
「ガエルさんだ…」
俺は奇妙な感動を持って呟いた。
次元の彼方の空遠く、ガエルの住むと人のいふ。ああわれガエルにときめいて、涙ながらに(現実に)かえりきぬ。次元の彼方のアルボレア、ガエル住まうと人のいふ…。
カール・ブッセも驚倒するに違いないこの出会いに、普段へたれだと言われても受け流している俺は勇気をかき集めて声をかけることにした。
「あの、どうしました?」
その声に彼女はハッとしたような表情でこちらを見て、それからまじまじとこちらの様子を観察する表情になる。
それからおずおずと、だがよく通る声でこう言った。
「私はエル。ゆえあって物質界に招かれたもの。だが気がつくとここにおったのだ。周囲を観察するにレルムでもグレイホークでもエベロンとも見受けられぬ。一体全体、ここはどこだ?」
「ここは我らが現実世界、強いて言うなら日本でしょうか」
「ニホン…聞いたことがない。しかも私が知るどの世界とも異なるこの有様は…邪なる魔法によって幻覚でも見ているのか?」
そのまま自分の物思いに沈みそうな彼女に、慌てて確認する。
「貴女は天界のアルボレアからいらしたのですか?」
瞬間、彼女の目がキラリと光る。
「なぜ、それを?」
「いえ、こちらの世界でもガエルは有名ですので」
「そうなのか?」
「圧政を何よりも厭う遍歴の女騎士、美しく気高く何よりも自由を愛する天界からの使者…我が愛すべき憧れのひと」
立て板に水といった有様で答えるに、彼女はだいぶ頬を紅潮させて瞳はないけど目を白黒させているようだった。
無論、このような台詞はゲームからの引用に過ぎないのだが。
「そ、そうか。いや、そこまで想ってくれるものがこの世界にいるとは。ともかく我を招請せし者が見当たらぬ以上、ここに留まる理由はないのだが…呪文の取り直しをせねばならぬし、なにやら我の見知る世界とは大幅に違う様子。汝の好意を受け入れよう、ええと…」
健太郎。盆野健太郎」と名乗る。
「ケンタローか。よしなに頼む」
握手を求めてくる彼女の手を握る。すべすべしていて柔らかく、ちょっと冷たくて心地よかった。