アルボレアのガエルさん [1-2]

続きを考えてみた。


そのへんの女性ならいざ知らず、ガエルさんの頼みとあらば三千世界の果てまでもエスコートする心意気だった。
実際は冒険者たり得ない俺はエスコートされる側なのかもしれないが、あまり細かいことを気にするのは僥倖を逸するだけであろう。高名な拳法家も考えるよりも感じるがままに動けと教えている。
「どうやら…この格好は目立つようだな」
気がつけば道行く買い物帰りの主婦だとか、犬の散歩をしているジャージ姿の爺さんだとか、近くの公立中学から帰宅途中と思われる女学生が、こちらを好奇の目で眺めながら通り過ぎていく。
そりゃそうだ。遠目には外国の美人アーティストかなにかが、古風な格好というより本格的な西欧中世風コスプレをしているようにしか見えないのだから。
と、彼女は精神集中するように真剣な表情になったかと思うとその身体が一瞬輝き、いきなり変身してしまった!
「こんな感じ、か?」
俺の目の前でくるりと回転してみせた彼女は、さきほどとは違って非常に現代人らしい格好に変わっていた。
「擬似呪文能力の…ディスガイズ・セルフ」
「その通り。ケンタローの見立てを聞きたい。おかしくないか?」
いや、おかしくないかと聞かれれば目の前にガエルがいること自体がおかしいのだが、都合の良い現実は大歓迎なのでスルー。
しかも灰色青春ど真ん中の浪人生には刺激の強過ぎる、紺色のセーラー服を着た妙に発育の良すぎる白人の娘さんに変身あそばされている。
先ほどは20代半ばのオトナの女性の雰囲気で身長も170cmくらい、プロポーションは刺激的だが同時に肉体労働も辞さない肉付き骨格をしていたように思うのだが、今では10代後半の幼さと清冽さをまとい身長は160cmほどに縮み、手足がひょろっと長い女学生然とした姿になっている。
目には黒いつぶらな瞳が生じ、こちらをじっとみつめているので心臓の動悸がちょっと激しくなる。胸のあたりのボリューム感はそれなりに調整されているようだ。
たぶん道行く女学生を参考に変身したのであろう。通りかかったのがスレた女学生でないことにあらゆる神仏に感謝の祈りを捧げた。
「心の心臓…鷲掴み…」
「おもしろい表現をするな、君は」
そして彼女は胸ポケットにさしてあった黒縁眼鏡を取り出して、顔にかける。眼鏡だけは俺のものをコピーしたようだ。
「ケンタローとおそろいだな」
ちょっとはにかみながらそのような台詞を口にする彼女は、天使というより悪魔だと思った。