ティーガー戦車隊 (下) 第502重戦車大隊オットー・カリウス回顧録

とりあえず下巻も読了。
戦争に負けるってのは、本当に嫌なものだというのがよく分かる。いやだから勝てばいいじゃないかってのは見当違いであろうけど。
そもそもソ連の怒涛のような攻勢に死力を尽くして防衛戦を戦った歴戦の戦車指揮官が、ぬるいヤンキーども相手に戦闘にさえならない状況に絶望して投降するくだりは涙なくして読めない。いや投降のきっかけは傷ついた軍人やそれを献身的に看護する人々を守らんがためなんだろうけど。
戦闘意欲を失った同僚は頼りにならず、現実を直視できない上級将校に状況判断を期待できず、ヤンキーはこちらがちょっと反撃すると進撃部隊を引っ込めてヤーボと支援砲火で薙ぎ払うので手に負えず、挙句の果てには市民が独軍の情報を“解放者”たる米軍に漏らしているため戦闘区域への市民の立ち入りを禁じざるを得ない始末。
八方塞とはこのことか。
ただカリウス少尉の負傷のくだりが漫画でもこうはいかないというくらい奇跡的なものだったので、ちょっぴり感銘を受ける。
銃弾数発くらってすべて急所を外れている上、至近距離からトドメの一撃を受けたのに、ちょうど救援に到着したティーガーの方に首をひねったため致命傷にならず助かったという。あり得ねえ…たぶんHit Rollの出目が「1」だったんだな。
あと終盤ヤークトティーガーを受領するも満足に扱える戦車兵がいない上に、連続戦闘における照準の安定性に難があったりして、機材・人材・運用と割とどうにもならない中どうにかしていた東部戦線に比較して末期的な崩壊状況では、あらゆるものが組織的に機能するなど夢幻だと分かる。
最後に米軍捕虜となったカリウス少尉であるが、背格好(小柄で細身)からあまりに貧相だと思われたのかすぐに釈放され、自宅に戻ると軍人である父や弟と再会できたというくだりは、東部戦線で活躍後米軍に投降したもののソ連に引き渡されて抑留されたハルトマンだとか、レジスタンスのテロ活動で松葉杖生活となってしまったクノーケだとかに比べるとなんと幸運なのだろうと思われる。
やはり「私の戦争は終わった」と書ける人間とそうでない人間の違いというのは、あるのであろう。Wikipediaによれば1922年生まれでいまだ存命らしいので、現在86歳ということか。


関係ないが戦闘でしぶとく生き残る事例を見ていると、おいらはティンプ・シャローン(銀河万丈)が死んだフリする場面が必ず脳裏をよぎるのである。