さよならもいわずに

さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)

ウエケンこと上野顕太郎が描く最も身近な妻の死の一部始終。またその後。
マンガという表現がいかに多くものを伝えるか、妻の死さえ作品にしてしまう作家の業の凄まじさ、身近なものを失うということが如何なることか、人の死の様々な側面(生物から物体へ。その世間の取り扱い)など、ともかく「死」という重い出来事を引き込まれるように読ませてくれる点において壮絶である。
夏目房之介さんのBlogでの感想は読んでいたが自分には重く、手を出すには躊躇するものがあった。だけど読み始めたら止まらない。目を逸らせなかった。
p141で道行く人々とすれ違いつつ「なぜあなたではなく(自分の妻が死なねばならなかったのか)」という率直な思いは、ずしんと懐に来る。
またウエケンの持ち味である様々な作品・表現の引用も重いテーマとまじりあって、複雑な悲しみの色合いを見せている。
とくにブレード・ランナーのルトガー・ハウアーの独白は、やはり同様に自分の存在の儚さに思い至るときにはたびたび心に浮かび上がってくるものであろう(少なくともおいらはそうだ。
どんな衝撃を受けようが不幸に打ちのめされようが生活は続いてゆく理不尽さとともに在ること、ゆめゆめ忘れるべからず。