新宿 道楽亭|辻真先・80歳傘寿未満、なお現役。アニメ&特撮人生大回顧#1

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辻真先さんは以前竹熊健太郎氏の公開講座にゲストでやってきたとき、「死に神はあした来る」(朝日ソノラマ文庫)にサインをもらって以来。
ちゃんとお話を聞くのははじめてだ。
会場はそれほど大きくはなく集った人間は10名くらいであったろうか。名簿らしきものをのぞいたところ、芦辺拓氏の名前があり驚いた。推理作家の芦辺拓だよ、な(自信なし。ポイントポイントで進行を助けていたし博学であり23才の女性イラストレーターを紹介していたので*1たぶんそうだ。


イベントの趣旨としては、80歳になろうという今も現役で活躍されているその秘訣をうかがおうというもの。
愛知は名古屋のおでん屋さんの子供として生まれ、裏手にあった古本屋などで立ち読みして少年講談や漫画をむさぼるように読んで育ったという。
幼少期に読んだ作品などで未完結の話には忸怩たる思いが今もあり、作家は作品の登場人物に対してちゃんと幕引きをするべきだとの思いを語る。
以下、簡単にメモ。
・米軍がNHKを一時接収していたため、NHKでのマイクのナンバリングは他局と違ってA, B, C…とふられているらしい。他局だと1, 2, 3…になる。
・「この花の名前を僕たちはまだ知らない」を既に視聴済み。「オバケのQ太郎」との関連で幽霊キャラをどう演出するかという視点で語る。新旧問わず大衆に受け入れられる面白い作品を探して視聴読している。
・最初の記憶は洗面器いっぱいに血を吐いているところ。扁桃腺かなにかの病気のとき患部(口の奥)を切開したためそうなったのだが、当時4才(1936年)くらいであったが講談社の「タンクタンクロー」(復刻版をおいらも持ってる。著者は阪本牙城)を親が買ってくれるというので、その麻酔なしの切開に耐えたのだとか。値段が1円もするので子供には手が出なかったようだ。
・少年講談から入って吉川英治野村胡堂蘭郁二郎*2海野十三甲賀三郎小栗虫太郎江戸川乱歩横溝正史など戦前から戦後までの読書歴が披露される。
・枕絵を見たこともある。母親の嫁入り道具だったのではないか。
・戦後、NHKに入って国会図書館で昔の子供向け漫画の資料を閲覧したとき、エロ劇画?を貸し出されたこともある。当時は漫画といえば子供の分類でひとくくりにされて作品の中身は問われなかったため、そういった事態も起きた。
・最近のラノベ作家や漫画家が世界中の神話をネタに作品を創作する傾向については少々食傷気味か。これは大衆文学が継承されてないことにもよる。
・国民作家になってしまってはエンターテイメントとしては終わる。面白くなくなる。山田風太郎はついに国民作家にはならなかった。
・辻氏の世代からすれば少年講談(ちょい上なら立川文庫)に取り上げられるような伝奇や時代劇、空想科学のネタは幼少期に刷り込まれている。ただそれらは昭和10年代と昭和20年代初期のものなので、紙不足で記録に残らなかった。ゆえに実体験したものだけがそうしたネタを作品に昇華できる。白土三平とか。
・映像表現は苦難の時代。娯楽チャンバラ映画のクライマックスに阿波踊りの場面をもってこようとしたらお上から戦時中なので阿波踊りとは何事かとクレームをつけられ、戦後米軍が来てからはチャンバラそのものが禁止される。ともかく活劇はダメ。西遊記などで喜劇になってるものはオッケーという話だったようだ。
栗本薫グインサーガもちゃんと買って読んでいた。作品世界を責任もって描いていたのは偉い。登場人物の幕引きについては著者の病死だけはどうにもならない。これは手塚治虫も同様で、死の間際まで作品に対する執着は捨てていない。今敏さんの話も。
・辻氏の人生観の原点。大人は嫌い。学校で2000人いた同時代の人間が戦争後5人になった。故郷は焼け野原。今では海部元首相が道路となった跡地に建てた碑があるだけ。学生だったけど学校が鉄筋だったので工場として接収されそこで働かされた。就業後、自分たちが畑で育てた作物(芋)を大人が「俺たちはお国のために働いているから食う権利がある」と全部持って行ってしまった。学徒動員で自分たちも働いているのにだ。子供は損するものだとの認識。それ以来子供のためにという姿勢で。
・一番良かった教師は戦争終結一週間前に「この戦争は負ける。残った大人はどうなるか分からない。でも子供たちは大丈夫だろう。後の日本を頼む」との発言。軍国少年たちは憤った。終戦後、教師を辞して故郷に帰る。特攻に若者を駆り立てた教師はそのまま米国の教育を教える立場にすぐさま転向した。不信感。
・空襲を体験している辻氏は高畑勲「ほたるの墓」の空襲場面はリアルではないとの指摘。木造家屋の多かった日本では、ナパーム弾(焼夷弾)はただ燃えるだけである。「ほたるの墓」のような場面にはならない。しかしそれが映像としては正解で、空襲のリアリティを出していた。視聴者にはそちらの方が伝わる。


まとまらんが箇条書き。
しかし、辻真先さんから少年講談や海野十三などが初期に発表した自由奔放な作品からの面白いネタを聞くに、聖悠紀超人ロック」ですべて使われているのじゃないかと思うのであった。まああれはローダンシリーズとかの影響もあるのだろうけど。後催眠(ヒュプノ)だとかエスパーコントローラーだとか。その他もろもろ。
とりあえずおいらの聞き書きなので正確ではない。ビデオ撮影とかしてたみたいだから、詳細はなんらかの形でまとめられるであろうそちらを参照されたし。

*1:業界人っぽい。

*2:取り上げられた「脳波操縦士」は青空文庫に収録されていた。http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person325.html