ロフトプラスワン 鈴木美潮×唐沢俊一「平山亨の人生を訊く!」

久々のロフトプラスワンである。仕事をほっぽって18時45分には現場に。
煙草の煙が嫌いな私は、濃ゆい話を聞けるこの場所が好きではあるが、二の足を踏むことの方が多い。とくに混んだ状態だと最悪だ。
だが今回はほどよく空いていたため、幸運にも話に集中できる環境であった。
子供の頃にお世話になった特撮番組に深く関わっていた平山氏の話を、唐沢氏と鈴木さんが聞き手となって、まあ堪能しようという企画である。
話は東映がテレビの出現によって、今まで時代劇で稼いでいたのに一気に収益が悪化したところからはじまる。これにより現場で働いている人たちの生活に危機が訪れる。これを何とかしたいと思っていた平山氏は、いろいろな縁あって、水木しげる悪魔くん」のテレビシリーズの仕事を請けることになる。
東大出にも関わらずマンガ好きであった平山氏は、貸本での「悪魔くん」の面白さに気づいていた。が、これをテレビ化するにはあまりに内容が過激にすぎたという。しかし、たまたま当時の講談社の編集(伝説の人・名前なんだっけ?)と話したとき、この人も「悪魔くん」の面白さに気づいており、水木しげる氏に頼んで貸本版よりもソフトな内容にして講談社で描いてもらう段取りが進行中だったのだ。そのソフト版であればテレビ用に使えるのではないか、ということになり…こういった機縁で「悪魔くん」をテレビ作品とする仕事に取り掛かることになったのだ。
だが、東映では初めてのこと、テレビ作品製作のノウハウが当然ながらない。それを模索しつつも、現場では仕事できる嬉しさもあって、皆が情熱を持ってこれに取り組んだ。その結果、最終的には局が割り当てていた予算の3倍もの製作費を使ってしまったというから驚異的である。
「3倍! あんたら、赤い彗星か!」と突っ込んでしまった。
普通の会社だったらクビ、出社に及ばずとなるところを、上司が「これは宣伝費だと考えることにしよう。東映は他社よりも遅れているのだから」と周囲を説得してくれ、何とか最悪の事態は免れる。
といった昭和30年代の話を皮切りに、幸せな時間が過ぎてゆく。
こういった話をえんえんと聞くのは大好きなのだ。


その他印象に残ったのは
◎ゴレンジャーのモモレンジャーは「ふともも」からモモレンジャーというネーミングが出てきた。
 それはもともとモモレンジャーのオーディションを受けにきた小牧りさ(?)が、ジャズダンスか何かをやっていて、足を蹴り上げる動きを要求されたときに膝から上に蹴り上げるのでなく、腰から一直線に脚を蹴り上げる様が見事だったことによる。
 平山氏いわく「(ふとももが)おいしそうだった」とのことである。
◎ちなみに「人造人間キカイダー」に登場するビジンダー役の志穂美悦子は「おしり」がいいのだそうだ。(ビジンダーは個人的に大好きで、唐沢氏が例の“第3ボタンをはずすと…”というネタを振ってくれたのが嬉しかった)
◎「人造人間キカイダー」の”キカイダー”という名称は、平山氏が近所の子供たちに資料を見せてヒアリングした結果を「私が調査した結果、(統計が)このようになりました」と報告したことで決まったらしい。
◎当時、TBSで放映される番組のスポンサーになることは社会的なステータスがあった。
 スポンサーにならせてくれ、と順番待ちが生じたほどである。
◎「キャプテン・ウルトラ」は、そんなTBSの重要な時間帯(ウルトラシリーズ円谷プロの時間帯)を半年にわたって東映で確保して製作されたものである。これは円谷プロが半年間の再編期間をおかねば、クォリティの高いウルトラシリーズを提供し続けることができなかったため。
◎「キャプテン・ウルトラ」は全編セット撮影のため(宇宙が舞台だから)、セット代も馬鹿にならないのではないかと思われたが、当時東映のセットは時代劇不調のため浮いていた。これをロハで使わせてもらって助かったという話である。
(ISOなんかでうるさい昨今、こんな融通のきいた時代にちと憧れる気持ちもあるかな)
◎今まで視聴率とれない枠の中で何とかいいものを、という姿勢でやってきたのに、この「キャプテン・ウルトラ」のときは、ウルトラシリーズがそもそも40%という驚異的な数字を叩き出していた。で、「キャプテン・ウルトラ」でそれが39%台に落ちたがゆえに、局から“緊急に対策を!”などとせっつかれたので大変堪えたそうである。
◎「がんばれロボコン」に出てくるロビンちゃん役の島田歌穂さん。
 「いい子がいるんですよ」との話を聞いて会ってみると、一気にロビンちゃんのイメージが固まったそうである。それまでは企画としてそういうキャラクタを登場させようという話はあったものの、着ぐるみにするのかどうかなど細部は決まっていなかったそうだ。
 役にも役者にも視聴者、製作者にも愛された稀有なキャラクタだと言えるかも。
◎ドルゲ事件(「超人バロム1」放映時、敵役にドルゲ魔人を登場させたが、父親にドルゲという名のドイツ人を持つ子供がいじめにあうので裁判沙汰になるとかならないとかいう話。これがもとで「バロム1」は不完全燃焼だったらしい。当時子供だった私はそんなことは覚えちゃいない)で辛酸をなめた平山さんは、次なる企画で皇帝(カイゼル)をもじって「ガイゼル」というキャラクタを登場させた。
 ところがこれもエジプトかどこかに実在する名前だったというのでビビったという話。
◎そもそも当時中学生だった鈴木美潮さん(読売新聞政治記者?)が天啓を受けて平山氏に会いに行き、「仮面ライダー」について多忙な平山氏と喫茶店で2時間も濃い会話をしていたというエピソードが凄い。その後、鈴木さんは海外に留学しているのだが、そこでも3日とあけずに平山氏と文通(?)していたという。
 その情熱のそもそもの発端が特撮であるというのだから、業が深い。
 “特撮3倍段の法則”(オタクの中でも特撮オタクは特に濃ゆいことを表現した言葉。もともとは「空手馬鹿一代」か何かで、剣道3倍段として武具を持った有段者が徒手空拳の武道家との比較に使った言葉である)を思い出してしまった。
◎平山氏は「ふたりエッチ」(克亜樹)を絶賛していた。
 まあ夫婦としてエッチを共同で模索することには意味があるのだよ…ということを、いやこれは言葉で語っても意味ないな。
 うれしハズカシな、あの場の楽しい雰囲気はまあ、とても良かったのではないかと。
石森章太郎氏と「ヒーローが悪を倒した後どうなってしまうのだろう?」と話したとき、藤岡弘氏が海外ボランティアをやっているという話を聞き「ああ、そういう(弱いもののために生きる)のはいいね」と答えて2人でその落としどころに納得した、という話をしみじみとされていた。
◎本当はヒーローものは嫌い。ヒーローはおせっかいで勝手に助けるし、助けられる方もそれを待っているのがよくない。
 自助努力をし、助けるべきものを助けるのがいいのではないか。
 最終的には「異形のものとの愛」が描きたかったという。


長くなったのでこのへんで。とても楽しかったです。また機会あったら行きたいなあ。