竹熊健太郎氏の「ナンセンスの世界・後編」

で、先週に引き続き、朝日カルチャーセンターに行ってみたわけである。
今回は「サルでも描けるまんが教室」を原作者である竹熊氏が解説するというスタイル。
途中から共同執筆者である相原コージ氏も参加され、当時を振り返り、翻って現在の状況と比較してみたり。
興味深い話に、あっという間に時間が過ぎてしまいました。


そもそも竹熊氏の経歴、ステップアップの仕方が面白い。
自販機本の出版社であるアリス出版でその職歴をはじめたときに、職場の同僚だったのが藤原カムイ氏であった…という所に端を発している。
藤原カムイ氏がその後、白夜書房の雑誌「漫画ブリッコ」で描くようになったとき、竹熊氏もページをもらって仕事をしているのだ。
ときに1983年というから、私は高校生。たぶん漫画ブリッコもどこかで目にしていたと思うが、既に記憶の彼方だ。
この雑誌は悪名高い大塚英志が編集にいて、ライターの中森明夫が「オタク」についてのコラムを書いて喧嘩になったことで有名、という。(オタクとは雑誌読者のことであり、読者批判を雑誌内で展開するとはケシカラン。とか)
まあ、そういったすったもんだも20年前にあったということだ。
藤原カムイ氏はさらにその後、双葉社で仕事をする機会に恵まれ、これに竹熊氏も追随する。
双葉社では出版社の資本の入った印刷所があり、日曜入稿で火曜雑誌発売…という偉業を成し遂げたというエピソードを持つ。
ぶっちゃけあり得ない。というか絶句?
で、さらに藤原カムイ氏が次に小学館で仕事をすることになり、同じ流れで竹熊氏も小学館という場に登場することになる。
ここで当時担当だったのは、いまや雑誌IKKI鶴岡法斎氏の話によれば、「やばい雑誌」ということになるのだろう)の編集長である江上氏。
当時編集長だった白井氏は、小学館専務となっているという。
面白いのは、小学館にたどり着くまでは藤原カムイ氏の後ろにいてスリップストリームを使っていたのだが、小学館にたどり着いた途端そこから抜け出しているところだ。
不幸な事情(詳細は知らない)があって、藤原カムイ氏が小学館で受けた仕事は大輪の花を咲かせるといった展開にはならず、竹熊氏も小学館ビッグコミックスピリッツの火消し役(作家*1が原稿を落としたときの穴埋め、など)として動くことになる。
しかしながら、ここで近所に住んでいた相原コージ氏と意気投合し、かねてより温めていた自由自在にマンガそのものを俎上に上げてギャグが出来る場を企画するのであった。単独での企画は不発だったものの、コージ苑でヒットを飛ばした相原コージ氏とタッグを組んだことにより、「さるマン」の企画はあっさりと通過するのであった。
時に1989年。前年の手塚治虫が亡くなり、この年の最初には昭和天皇が亡くなって時代が確実に変化していた時期である。
もっとも田河水泡がその後に亡くなっているので、順序が入り組んではいるのだが…とは竹熊氏の弁。


今回の講義ではいろいろ危険な話も出たのだが、まあ覚書としては以下のような感じ。
●「イヤボーン」の元祖はサルまん
 Gamerで超能力の話になると必ず使われる用語で、違和感はなかったものの個人的に出典が不明であった。それが判明したのが嬉しい。
 その他にも「アニメ絵」とか、サルまんによって誕生した語句は結構あるようだ。
サルまんの流れ
 あったあった。とんち番長。なんか当時読んだ記憶のみだったので、非常に懐かしかった。
 また竹熊氏が唐沢なをき氏に触れられていたのが「成る程」と思った。
コミックビームの編集長、奥村さんは秋田書店少年チャンピオン)出身。
 秋田書店は70年代に編集部全員が乱闘事件を起こして留置された武勇伝を持つ。
 何が武勇伝って、その間(一週間ほど?)の業務すべてをバイトと編集長だけでやってのけたという。
 それを武勇伝と称していることが、まさに武勇伝って感じではないか。
 そんな秋田書店出身の編集長率いるコミックビーム「エマ」は掲載されているのである。まあ森薫さんもインタヴューとか読むと曲者くさいのだが。
男一匹ガキ大将の爆笑できる笑えない話
 本宮ひろ志は「男一匹ガキ大将」の連載で、主人公を窮地に追い詰めすぎてその解決案が出ず、とうとう原稿の最後のページに「完」の文字を入れて終了させた、という。
 ところが。
 編集者はこれを認めず、「完」の文字を「つづく」に変えて印刷に回したのだ。
 これだから他人の修羅場は面白い!


といった感じ。
サルまん」は年内に小学館から復刊予定だという。
講義終了後には、先週より増えて14,5名の生徒(2名は竹熊氏の教え子さんで、講義サポートとして映像機材を扱っていた)はそのまま居酒屋に誘われる。
見も知らぬ、この講義を受けるためだけに集った年齢・性別・職業も雑多な人々とともに私も流れていく。
朝日カルチャーセンターの方、竹熊さんの教え子さん、公務員の人(意匠検定官?)、などの話を聞く。
それはそれで面白き夜でありましたことよ。

*1:江口H史とか、一色まKと、とか